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2022.03.01

一般社団法人イマココラボと考える!私たちのSDGsトリセツ

「SDGs」とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称であり、2015年に国連で採択された、国連加盟国が2030年までに達成すべき17の数値目標です。それに伴って、文部科学省が「持続可能な開発のための教育(ESD)推進の手引」を発行するなど、学校現場でもSDGs実現のための教育が求められています。
そこで今回は、国内でSDGsに関するワークショップなどを多数実施されている一般社団法人イマココラボの共同創業者/共同代表である稲村健夫さん・村中剛志さんをお招きし、私たちはSDGsをどのようにとらえ、関わるとよいのか、光文書院社員とディスカッションしていただきました。


2016年10月設立。
オリジナルのカードゲームを活用し、楽しくシンプルにSDGsを理解できる「ワークショップ2030SDGs」を開催。企業の研修から学校教育に至るまで幅広い分野での実績があり、4年間で20か国25万人以上が体験しているほか、2019年には国連でも高い評価を受けている。
公式サイト https://imacocollabo.or.jp/

SDGsに取り組むきっかけ

ーはじめに、お二人がSDGsを知ったきっかけや、イマココラボを立ち上げたきっかけを教えてください。

稲村さん:いきなりカミングアウトしますが、実は中学生くらいのときから、世の中の仕組みってなんか変だなという感覚がずっとあったんです。自然との関わりなどを考えたときにおかしいんじゃないかなと。ただ、企業の経済活動とか仕組みみたいなものが強大すぎて、大きくなってからも違和感と同時に諦めがずっとありました。そんな中、SDGsを知って「これだ」と思ったんです。世界は全部つながっている、という感覚でつくられていることや、非営利団体だけではなく企業が取り組むべきだという考えに基づいている点が魅力的だと思いました。しかも、国連で採択されているというお墨付きもありましたからね。
ただ、少しわかりにくい部分もあったので、広く普及させるためにカードゲーム「2030SDGs」を開発したところ、それが好評だったんです。

2030SDGs

SDGsの17の目標を達成するために、2030年までの道のりを体験するカードゲーム。
プレイヤーには「大いなる富」「環境保護」などそれぞれのゴールが与えられ、環境・経済・社会のバランスをとりつつ、多様なプロジェクトを実施し、その実現を目指す。

村中さん:そこで、会社を立ち上げてカードゲームをさらに広めようと、イマココラボを設立しました。SDGsって世界の制度だったり仕組みだったりの話なんですけど、それを変化させるためには個人の内面も変化させる必要があると私たちは思っていて。私はもともとそういった個人の内面の変化に興味があったので、こうした活動をしています。

子どもとSDGsを学ぶために

ーお二人は子どもと一緒にSDGsを学ぶ活動もされたことがあると伺ったのですが、子どもにSDGsを学んでもらうときに気をつけることはありますか?

稲村さん:子ども相手だと、前提として「大人から子どもに教える」という枠組みになりがちなんですけど、実は大人も、SDGsを含め「地球でどう生きるか」ということについてそんなに深く考えていないんですよね。今地球上で起きていることを宇宙人的な視点でふっと考えてみると、結構おかしなことが多いんですよ。ゴミが溢れて処理できていない世界があるのに、一方で私たちは新しいものを作り続けている、とか。そういう部分ってむしろ子どもの方が気づきやすい部分があるんじゃないでしょうか。
なので、子どもの中に広がる探究心や感覚を邪魔せず、疑問がちゃんと育つような関わり方をすることが大切だと考えています。

村中さん:そもそもSDGsがカバーする領域はとても広いので、「SDGsとは何なのか」という質問に対してこれだという限定的な答えはないんです。裏を返せば、SDGsについて子どもたちが考えたことや思ったことは全部正解なんですね。なので、子どもを唯一絶対の答えに導くのではなく、それぞれの考えをそのままアウトプットしてもらうことを目指せるとよいのではないでしょうか。知識を教え込むのではなく、子どもたちの話し合いをファシリテートするというスタンスで臨むのが大事だと思います。
もちろん、先生と子どもの知識量には差がありますし、子どもが自分の考えを深めるためにも、必要な知識を教えていただくフェーズも絶対に必要です。知識を教えるフェーズと子どもの考えを引き出すフェーズ、どちらかに偏るのではなく、両方をバランスよく実施できるといちばんよいですよね。

稲村さん:そして、もし可能であれば、子どもと話す前に、先生ご自身もSDGsを一度フラットに眺めて、自分はSDGsをどう思うか考えてみてほしいですね。「先生は、この目標はこう思うんだけど、ここはわからないんだ」とか「SDGsのこの部分に関してはまだ先生ももやもやしているんだ」というように、先生自身が疑問に思っていることを子どもに話すことができれば、子どもたちもより考えを深めていけるのかなと思っています。

子どもの探求心を育てる

ー子どもに教える、というよりは、子どもと一緒に考えるというスタンスが大事ということですね。小学生の年齢だと、どういった活動から始めるのがよいのでしょうか。

稲村さん:自然の中で遊んだり泥だらけになったりして、自然との親和性を体感してもらうようなことが、幼い頃には特に大切だと思っています。 SDGsにおいては、幼く未完成な子どもたちに知識を与えて成長させるというよりも、自然に大きくなっていく子どもたちを、いかに剪定せずのびのび成長させられるかを考えていただきたいです。
先ほど話題に上がったカードゲームを使った学習などは、実は結構難しいので高学年くらいからがよいのかなと思います。特に低・中学年のうちは、外で遊ぶ経験を積ませてあげたり、言いたいことを言っても怒られない環境を作ってあげたり、子どもたち自身の探究をサポートしてあげるのが大事だと思います。

村中さん:SDGsの〇番は〇〇の目標、みたいなことを覚えていくより、自然の中で遊びながら、自分たちの生活と自然がつながっていること、人と人との生活がつながっていることを実感していく方が大事かなと思います。
急にSDGsの目標だけ学んでも、子どもにはきっと響かないですよね。自分ごととして考えてもらうためには、子ども自身で「これはなぜだろう」「これはおかしい」という問題意識をもつことが必要なんです。子どもが問題意識を見つけられれば、ほとんどの場合、SDGsの17の目標の中に近いものがあります。最初から守るべき目標としてではなく、自分の問題意識を解決する手段としてとらえると、子どもにとってもSDGsが受け入れやすくなるのではと思います。

SDGsは「処方箋」

ーお話を伺っていて、「SDGsは目標ではなく手段なのだ」という言葉が印象的でした。

村中さん:SDGsが国連で採択された当初の文書のタイトルって、実は「SDGs」ではないんですね。“Transforming Our World”という英語のタイトルで、和訳すると「我々の世界を変革する」という意味になります。国連が合意したのは“Transforming Our World”で、SDGsはその手段なんです。
“Transforming Our World”をどう自分ごとに落とし込むのかというとらえ方は人それぞれあるのですが、我々は社会の仕組み、制度、慣習などの外側の変革はもちろん、個人の内面であったり、どうやって生きるかという部分も両面で変化していく必要があると考え、カードゲームをはじめとするイマココラボの活動をしています。

稲村さん:SDGsは、例えると処方箋なんです。症状を自覚していないのにいきなり薬だけを渡されてしまうと、「なんで私はこの薬を飲まないといけないの? それって本当に効くの?」ということになってしまいますよね。まずは、その裏側にある症状というか、世界の現状に思いを馳せることが必要なんです。
ちなみに、症状の部分は、「自然環境」と「人間をとりまく格差・貧困」という大きく二つのテーマに分けられます。小学校だと、理科と社会のお話ととらえることもできるかもしれません。その二つの観点から世界を見たときに、出てきたのがこの17の目標だったんですね。
そして、元気な状態になるためには薬を飲むように、SDGsの向こうには目指したい姿があります。ただ、目指したい未来は人によって異なりますよね。だから、SDGsには「とりあえずこれで」みたいな部分があるんです。全然違う未来を目指す人たちが、それでもこの17の目標であれば自分の目指す未来が実現できそう、といったん合意できたんです。そして、現状が厳しいので、「無理やりかもしれないけどとりあえずここを目指しましょう」という数値目標を設定したんですね。これがSDGsの成り立ちです。

村中さん:なので、SDGsってゴールじゃなくて通過点なんですよね。これだけが正解ではないかもしれないけれど、まずはここを目指したらいいんじゃないかという一つの方向性なんです。

ー「世界を変革する」という目的を忘れ、数値目標を達成することに躍起にならないよう、気をつけないといけないと思いました。

稲村さん:そうですね。たとえばお金も一つのツールでしかないのですが、お金を得ること、貯めることが目的になってしまうことも多い。目的になりがちなものに対して、「これってあくまで手段だよね」という視点をもつことが必要だと思います。

「あなたはどんなのがいい?」

ー症状の部分には、理科(環境)のお話と社会(格差や貧困)のお話があると伺って、理科と社会の授業ではそういった現実の部分からSDGsを考えるアプローチができそうだと思いました。

稲村さん:そうですね。また、別のアプローチとしては、単純に「あなたはどんなのがいい?」という問いかけから考えてみることもできます。「あなた」というのは、個人の偏愛やこだわり、つくろわない自分のことで、「どんなの」というのは社会の仕組み、制度、慣習のアイデアなどを想定しています。現実の慣習などはいったん置いておいて、純粋に理想を考えてみるんです。たとえば、「こんなにネットが発達しているんだから、政治も政党制じゃなくて、法案ごとの個別投票でいいじゃん」なんていうアイデアも出てくるかもしれません。一見、荒唐無稽に見えるかもしれませんが、制限をかけずに理想を考えていくことは、SDGsを達成するうえでも必要です。

ー先生方が、自分にとってのSDGsを考えてみたいと思ったときにも使えそうなアプローチですね。

村中さん:そのときはぜひ、あるべき正解を答えようとするのではなく、子どもたちと同じ目線で、ありのままの自分の理想を考えていただけるといいなと思います。例えるならば、ふろしきを広げるように、自分のこだわりや偏愛を全開にして考えてみてください。

稲村さん:ふろしきを広げる、みたいなことは低学年の子の方が得意かもしれませんね。むしろ閉じ方を知らなかったり(笑)。

村中さん:そう思うと、理科・社会をまだ勉強しない低学年の子どもにも積極的に取り組んでもらえるアプローチですね。

SDGsに懐疑的な意見が出たときは

ー実は本日、「SDGsに対する懐疑的な意見が子どもたちから出たらどうすればよい?」というご質問を用意していたんです。ですが、強引に答えるのがよいという訳ではない気がしてきました。

村中さん:まず、子ども自身が疑問をもてているということがすばらしいですよね。その子の感覚をきちんと表現できているわけですので。自分がどう生きていきたいかの方向性をすでに体現し始めていることに対して、素直に「おめでとう」と言いたいです。

稲村さん:一つ補足させていただくと、その瞬間、その子をちゃんと見てほしいなと思います。その子が自分のこだわりや理想を自覚し、ふろしきを広げた状態で思わず口に出てしまったのであればすばらしいなと思います。一方で、周りの大人から影響を受けて、何かをインプットしたときにいったんシニカルに(皮肉っぽく)否定するのが癖になっている子もいて、そういう子にはまた別の関わり方があると思います。だから、しっかりその子を見てあげて、どうしてそう思ったのかフラットに聞き出してあげるのが大事なのではないかと思います。

ーSDGsに対する懐疑的な質問は、その子の可能性を広げるチャンスですね。

村中さん:まさにチャンスです。そして、先生がそれに正解で答えようとしてしまったら、そういう大人の自分がいることにも気づけるといいですよね。「SDGsは正しいんだ、目指すべきものなんだ」と決めつけた接し方をしてしまうと、その子はせっかく広げたふろしきを閉じざるを得ないので。それってすごくもったいないですよね。

ー大人側が、いきなりふろしきを閉じさせようとしないで、まずは子どものことをよく見る、ということが大事ですね。

稲村さん:前半でもお話したように、SDGsに正解はないので、子どもたちには自由に自分のふろしきを広げてほしいし、先生方には子どもがふろしきを広げられる環境を用意していただけるとよいなと思います。

まとめ

いかがでしたか? しっかり考えると大人にとっても難しいSDGs。無理に正解を見つけようとせず、子どもたちの素直な考えを大切にしながら一緒に考えていけるとよいですね。
自分のクラスでもSDGsを取り入れてみたいと感じた先生方!光文書院発行の情報誌「T-Navi Edu vol.11」では、実際に理科と社会の授業でどのような実践ができるかをご紹介しております。ぜひそちらも併せてご覧ください。